経営学部 後藤宏行
世界の文学セレクション『スタインベック』怒りのぶどう 尾上政次訳
中央公論社1995年
「貧困」の中でしぶとく生き抜いた人々を描いた小説
米国オクラホマ州を激しい砂嵐が襲い、先祖が血と汗で開拓した農地は耕作不能となった。大銀行に土地を奪われた農民たちは、トラックに家財を積み、故郷を捨てて、“乳と蜜が流れる”新天地カリフォルニアを目指したが・・・・。ジョード一家に焦点をあて、1930年代の米国大恐慌期に、苦境を切り抜けようとする情愛深い家族の姿を描いた、ノーベル文学賞作家による不朽の名作です*。
つい最近、図書館分室の廃棄図書の中にこの本を見つけたので読み始めました。ページの段組みが上下2段のなかなかの大部ですが、一気に読み切りました。米国で農業の機械化の進む中、「持たざる者」のありのままを描いた作品です。
率直に言って感銘しました。ジョード家に代表される貧農家族の生き方が大変詳しく描写されており、彼らの生き方の中に、計り知れないほどの人間の偉大さ、人としての尊厳、命の尊さを感じます。どんなにつらいことがあっても、餓え死にしそうになっても、旅先で性格が荒んでしまっても、それでも人間は生きていく。そのことが一番強烈に印象に残ります。
今の社会において、さまざまなストレスを感じながら生活をし、そしていつもその時代に不満を感じながら生きている現代人がこれを読むと、われわれが感じている苦労など実に小さいものに感じられ、前に進もうという勇気が湧いてきます。何かに行き詰っている人や、新たに何かに挑戦しようとする人たちには、ぜひ読んでほしい小説です。
* 新潮文庫『怒りの葡萄』書誌情報https://www.shinchosha.co.jp/book/210109/より。
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