経営学部 櫻木晋一
加藤慶一郎編『日本近世社会の展開と民間紙幣』塙書房2021年12月15日発行
この本は、2016~2019年度科学研究費基盤(B)(課題番号16H03650)に採択された研究成果をメンバー6人全員で執筆した貨幣史の専門書です。第Ⅰ章「日本近世の「私札」―平野郷町を中心にー」、第Ⅱ章「日本の近世紙幣の再定義と同時代認識」、第Ⅲ章「山田羽書の券面に関する一試論」、第Ⅳ章「「後期山田羽書」を支えた商人の役割」、第Ⅴ章「豪農・藩札・地域経済―岡山藩和気郡大森家を中心にー」、そして私が第Ⅵ章「中近世移行期の貨幣事情―九州地方を中心に―」を執筆しました。近年の貨幣史研究の進展は目覚ましいものがありますが、金属貨幣に対する歴史的な研究が中心となっています。しかし、この本は表題に「民間紙幣」とあるように、これまであまり研究されてこなかった「紙のお金(=札)」、それも商人などの信用力で流通していた私札に焦点を当てたものであるのが特色です。
江戸時代のお札といえば、全国各地に「藩札」が存在していたことをご存知の方がおられるのではないでしょうか。これは藩という公権力が発行し、地域限定で使用できる紙幣ですが、私札と呼ばれる民間で発行されたお札もたくさんあったことはあまり知られていません。本書を読んでいただければ、藩札と私札の呼称や区別の難しさも分かってもらえるのですが、まだ札類に関する研究の蓄積は少なく、これからの研究分野なのです。
お札に関する日本史の豆知識として、岐阜に近い伊勢地方の「山田羽書」が日本最古の紙幣だということはご存知ですか。日本でもっとも早く、16世紀初頭には出現した私札である山田羽書は、伊勢商人たちの経済的信用に裏付けられ、幕末まで安定して発行され続けたお札でした。そして、その原材料である紙は美濃地方から調達しており、朝日大学がある岐阜県と無縁ではないのです。また、皆さんが使っている現代のお札は横長ですが、近世日本の札類は縦長の短冊型であることも形態的特徴のひとつです。札には発行者や額面、年号などが木版印刷されており、当時の社会状態などを知るうえで重要な手がかりをいくつも提供してくれます。
江戸時代の日本では多くの種類の札類が発行されましたが、コレクターの収集対象としては金貨、銀貨、銅貨のような金属貨幣ほどは注目されていません。私は欧州の博物館や研究所が所蔵している日本の札類も調査していますが、ネット上でも写真付きで資料公開をしている大英博物館の227枚が最多であり(https://www.britishmuseum.org/collection/search?object=hansatsu)、ほとんどの研究機関は所蔵していません。 世界の歴史をながめてみると、多くの国は金属貨幣から紙幣へ変化しており、コインだけではなく紙のお金も調べてみると興味深いものがあります。また、ユーロによる欧州の通貨統合をみればわかるように、「一国一通貨」を前提とする近代通貨制度は終わりをつげ、これからの社会はキャッシュレスや暗号通貨の時代に突入しました。貨幣史を専門とする櫻木は、今後の貨幣の動向にも注目しながら、朝日大学経営学部でこの分野の研究を続けていきます。
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