経営学部 櫻木晋一
岩橋勝編著『貨幣の統合と多様性のダイナミズム』晃洋書房2021年2月28日発行
この本は、令和2年度科学研究費助成事業(研究成果公開促進費〈学術図書〉課題番号:20HP5151)に採択され、公的補助金を得て刊行された貨幣史の専門書です。収録されている論文は、16人の研究者たちが自分の専門領域に関する最新の研究成果をまとめたもので、おおむね日本の中近世史に関するものですが、外国史関連も含まれています。私は第16章「貨幣考古学と経済史研究―この20間の軌跡―」を執筆しました。
経済史分野における貨幣史研究は、われわれが1999年1月に「貨幣史研究会」を立ち上げ、毎年3回の研究会を続けてきたこともあり、この20年余りでかなり深化してきました。たとえば、昨年の大河ドラマ「麒麟がくる」を見ていたら、織田信長が金貨や銀貨、銭貨(=穴あき銅銭)を将軍足利義昭に寄進するシーンが映し出されており、これまで明らかでなかった蛭藻金や緡銭など、当時の貨幣使用の実態が正しく描けるようになったのです。この分野の研究をしている者にとっては、感慨深いものがありました。
「貨幣考古学」という学問は貨幣の物質的側面を中心に研究するもので、とりわけ考古資料である出土貨幣をデータベース化し、いろいろな学問の基礎資料として整備しようとするものです。私はこの「貨幣考古学」と経済史研究とのかかわりを、自分の研究史を振り返りながら執筆しました。
日本社会では戦国時代末期に金貨・銀貨が登場し、江戸時代になるとそれまで流通していた銭貨とあわせて、三種類の貨幣の交換レートが日々変動しながら使用されるという高度な金融システムのもとで、経済活動が活発に行われていました。このことは、明治維新以降の日本の近代化が急速に進展できた一因であると私は考えています。プリペイドカードやスマホによる電子決済など、近年は現物のおカネを使用しないケースも増えてきましたが、貨幣がわれわれの日常生活に欠かせない存在であることは今でも変わりません。経済学や歴史学にとどまらず、社会学や哲学など様々な分野の研究対象であるこの身近な貨幣を、学術的に研究するのは大変難しいのです。専門書なので難しいかもしれませんが、この本から貨幣研究のさまざまな視座を理解していただけたら幸せです。
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