経営学部経営学科 3年 田中皓基
1.はじめに
1.1 研究の背景
2023年2月20日から24日の間、ベトナム国ホーチミン市と周辺での短期海外研修に参加し、ベトナムに進出した日系企業を訪問する機会を得た。そこで経済拠点であるホーチミンを支えている物流について着目した。ベトナムでは交通が十分に整備されていないなど問題があるが、解決に向けて地下鉄の整備という対策が取られていた。またGDP上昇の中で生活水準も上昇しており、バイクから四輪車へと変化していく予兆がある。
本稿の目的は、ベトナム内にある物流企業がどこに集中しているか、ベトナムの物流の特徴について検討する。また保税倉庫内で管理上の工夫について現地ホーチミンでのヒアリングを踏まえて現状を示す。この上でベトナムの経済状況と絡めながら今後のベトナムの物流についての展望を明らかにする。
ただし、現地担当者から得たヒアリング結果に関わる「ベトナムの物流の特徴」、「日本との違い」、「ベトナムでの物流倉庫の運用方法」、「ベトナムの倉庫管理」、「冷蔵・冷凍の管理方法」、「保税倉庫を運営する上での工夫」、「今後の施設計画」および図表1~図表4にかかわる記述などについては本記事では割愛した点、ご了承願いたい。
1.2 先行研究
Cargo (2006)(13)によるとハノイへの日系企業の投資拡大が続いており、ハノイ周辺への拠点増設が進んでいる。しかし実際進出している企業はまだ少ないとある。進出を検討している企業も検討段階であると指摘しているが、この記事は2006年のものであり、現在では多くの日系企業が進出していると考えられる。林ら(2009)(12)によると部品の調達先としては、約7割が日本であり、日本との強いつながりがあるという。ベトナムに進出する理由として、自動車メーカーでは現地のニーズに合わせて現地で生産し、現地で販売する方式が企業としては理想的であると読み取れる。また労働賃金も日本に比べると安く、人を雇うことができるため進出するのだと考えられる。荷物と運送(2012a)(9)によると2012年当時においては、中国、タイ、ベトナムでは賃金が上昇し、今までの予算では労働力不足が発生し、こうしたことが進出の妨げになっていた。荷物と運送(2012b)(10)では、そのような中でも中国に次ぐ生産拠点として旺盛な物流の需要が期待されていることがわかる。
高梨子 (2017)(5)はベトナムの人口は日本とは違い都市部に集中しておらず、農村部に広域的に分布しているため、近年にかけインフラの整備とともに発展していっていると指摘する。そのため各地で業者が異なり統一感がないため、全国的な統一化が期待され、また日本に比べると発展途上国であることから経済発展とともに成長していくことが期待される。
岩尾(2017)(6)によると2007年から2010年にかけては撤退している企業もあり、岩尾の調査では「通関業務の手間」が輸送や物流に関する品質や道路インフラに対する課題よりも大きな問題としている。ベトナムで製造を行う企業には日本など他国への輸出を前提にとして作られていることが多いため、通関業務の手間は大きな課題なっていることがわかる。岩尾(2018)(4)によるとベトナムに進出している日系物流企業の業者を事業分類別にしたところ、倉庫・物流事業者が多いという。このことから貨物を置いておく場所の確保としてベトナムが使われていることがわかる。岩尾(2019b)(2)によるとベトナムに進出した企業が、原材料、部品や製品をどの国から輸入しベトナムで生産や加工した後に、どこの国で販売しているかを明らかにしていて、その中で最も多いとしているのが日本から製品を輸入し日本へ輸出する組み合わせだった。このことから日本はベトナムを生産ラインとして利用していることがわかる。岩尾(2019a)(1)によるとベトナムに進出している日系物流企業の多くは貨物運送事業者で多くの割合を占めている。撤退数が多い年もあったが全体的にみると進出している企業数のほうが多いとしていた。3章で示す企業年鑑の数値から大幅な減少がなければ、ベトナムの2022年の日系企業の数は、2000社程度であると推測される。
AMR(2016)(8)は、ベトナムのコンテナ扱い量が年々拡大し、2000年~2015年で10倍に拡大していると指摘する。そしてベトナム北部にあるハイフォンのコンテナ扱い量がホーチミンの50%以下に過ぎないと指摘しており、ベトナムの物流が南部のホーチミンに特に集中していることがわかる。AMR(2019)(3)によるとベトナムは中国との貿易に関しては船を使わず大陸でのトラック輸送を行っていると指摘している。吉田(2009)(11)によると、国内にあるベトナム海事大学では国際帆船で活躍する船員の教育に航海士、機関士両コースで力を入れており、また英語教育にも力を入れているという。またこの大学は徐々に校舎を拡大する傾向にあり、現在造船設計士コースや、建設中のロジスティクス関連の新校舎や寮も近年完成予定で建設中としていた。実際に2015年に完成している(16)。ベトナムも海運事業の拡大を受けそこを担えるような人材づくりを行っているとわかる。また英語教育をする背景には外国資本の参入が影響していると考えられる。
マテリアルフロー(2017)(7)よりベトナムの物流が南ホーチミンと北ハノイに二極化しているという。また最近では日本からの農業技術指導がありレタスの栽培などが行われるようになり、倉庫での低温管理システムが見直されていることがわかる。
これらの先行研究を踏まえると、ベトナムにおける物流企業は南北のホーチミンとハノイに極端に集中しているといえる。またそのうえで物流の貨物取扱数は北部より南部に偏っていると考える。このため、本稿では施設計画を「倉庫の位置づけ」「倉庫の運用方法」に区分した。
2.ベトナムでの物流倉庫の位置づけ
2.1 南北に二極化する物流拠点
ベトナムの中の主要な都会は大きく3つあり、ハノイ、ダナン、ホーチミンである。港湾(2023)(17)においてもベトナムの主要拠点として明記されている。先行研究よりベトナムの物流は北のハノイ、南のホーチミンに二極化していることがわかる。他方、北のハノイでは陸路を中心とした中国への輸出入の中心として使用されている。
そこで、ベトナムの企業年鑑記載(18)の日系企業1964件のうち、「運輸・倉庫」カテゴリーの176社を「日系物流企業」として位置づけ、抽出を行った。ベトナム国内の176社の物流企業について都市ごとにまとめた。ここから南と北に二極化していることがよりわかる。ホーチミンにおいてはカンボジアからのクロスボーダー輸送の中継地点として使われているため物流企業が多く集まっていると考えられる。カンボジアのプノンペンからベトナム経由で日本に輸入する際プノンペンからカンボジアの港まで運び、そこから船で輸送する手段よりも2週間ほど時間短縮でき、また輸送コストも抑えることができる。このようにして主要2拠点は機能している。
2.2 ベトナムの陸路輸送
ベトナムの交通状況としてはまだ完全に整備しきれていない部分が目についた。ベトナムでは日本のように四輪車が走っていないため、道路を見るとほとんどがバイクである。また今回行ったホーチミンでは人口が集中しているため、道路の端から端までバイクが埋め尽くし、歩道を走るバイクがいた。図表1がホーチミンの道路の状況である。
3.現地での取り組みとその魅力
今回の研修では6社に及ぶ企業訪問の中で、ベトナムで働く魅力について詳細にお話を聞くことができた。訪問した企業に共通するベトナムで働く魅力とは、高度経済成長の中で収入が毎年上がっていく状況であるため、やる気のある人が多く、また平均年齢が日本と比べかなり低く若い人で溢れた活気のある環境で働くことができるという点である。コロナ下で少し落ち込みはしたものの現在でも成長を続けている。また社会主義国家であるため安定した経済、政治があるというのも魅力である。ベトナムは想像していたよりもはるかに治安が良く安定していた。特に都市開発については印象に残っている。ベトナムのホーチミンは多くの高層ビルが立ち並んでいる。またそのうえで現在も多くの高層ビルの建設が進められていた。今後も都市開発により様々なものが普及していき、世界を代表する都市へと変貌を遂げていくであろう。
4.おわりに
本研究では5つのことについて明らかにした
- ベトナムの物流は南北の、ホーチミン周辺とハノイ周辺の大きく二つに分かれており、その二つの都市に集中して位置している。
- また立地を生かしカンボジアからの国境をまたいだクロスボーダー輸送を行っている。
- ベトナムの経済は右肩上がりでかなりの成長率で市場は成長し続けているが道路の整備や法整備が整っていないためトラック事故が多い 。そのためあまり長距離になるとトラックでの輸送は少ない。
- ベトナムの物流の今後の展望としてはホーチミンよりもさらに南のメコン、デルタエリアへ拡大が検討されていることがわかった。
参考文献
(1)岩尾詠一郎:<第4章>ベトナムとタイの日系物流事業者の進出実態からみた特徴、アジア産業研究センター年報 5 、89-97, 2019a
(2)岩尾詠一郎:<第2章>ベトナムにおける物流の特徴と課題 : 日系企業を対象とした調査結果に基づいて、 アジア産業研究センター年報 5、 67-77, 2019b
(3)産業アナライズ 物流 ベトナムを中心とするクロスオーバー物流ニーズが増大 : 日系各社も対応進める、Asia market review 31 (4), 10-11, 2019
(4)岩尾詠一郎:<物流問題分析チーム研究報告>ベトナムとタイの日系物流事業者の進出実態からみた特徴、アジア産業研究センター年報 4 、63-68, 2018
(5)高梨子文恵:日本の卸売市場への熱い視線 : ベトナムの例、農業と経済 : quarterly journal of food, agriculture and social studies / 『農業と経済』編集委員会 編 83 (11), 82-89, 2017
(6)岩尾詠一郎:<物流問題分析チーム研究報告>ベトナムにおける物流の特徴と課題 : 日系企業を対象とした調査結果にもとづいて、アジア産業研究センター年報 3 109-118, 2017
(7)MF SpotLight メープルツリー ベトナムで大型物流施設を開発 日系企業が求める高機能性を確保、Material flow = マテリアルフロー 58 (1), 76-78, 2017
(8)ベトナム北部で港湾開発進む : 日系物流会社がサービスを拡充、Asia market review 28 (20), 9-, 2016
(9)止まらぬ日系物流企業の「汎アジア」戦略 マレーシアに動意、肥大する中国、ベトナム,荷主と輸送 39 (4), 15-22, 2012a[MY8]
(10)ベトナムに進出する日系物流会社の今 経済減速も若年層多く、国内需要に期待 : 2014年1月に外資物流企業の規制緩和、荷主と輸送 39 (3), 23-27, 2012b
(11)吉田麻貴:ベトナムに進出する日系海運会社、Kaiun = 海運 : 総合物流情報誌 (984) 44-46, 2009
(12)林克彦,小林二三夫, 久米秀俊:ベトナムにおける日系自動車企業のロジスティクス、日本物流学会誌 (17) 89-96, 2009
(13)ロジスティック–日系物流企業、ハノイの拠点強化 中越間などトラック陸上輸送にも注目,Cargo : monthly logistics magazine / 海事プレス社 [編] 23 (16), 51-55, 2006
(14) ベトナム | 一人当たりGDP | 2010 – 2022 | 経済指標 | CEIC (ceicdata.com)(最終アクセス日2023年3月27日)
(15)クロスボーダー輸送 | 濃飛倉庫運輸株式会社 (nohhi.co.jp) (最終アクセス日2023年3月27日)
(16)世界海事大学(WMU)新校舎開所式典 | 日本財団 (nippon-foundation.or.jp) (最終アクセス日2023年3月27日)
(17)特集ASEAN地域の迷笥のこれまでとこれから:ASEAN地域と今後の日本の連携、港湾2023・2、pp.20-28、2023
(18)コム・バンコク(株):ベトナム日系企業年鑑2015、2017
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