瑞穂市(旧穂積町)出身の直木賞作家、豊田穣の作品世界と現実の地名の対照について調査している。豊田穣は多数の戦記物の知られる作家で、私などは光人社文庫の青色の背表紙によく入っている著者の1人としか認識していなかった時期がある。今回、作品を調べていったら「松岡洋右 悲劇の外交官」は、なぜか読んでいた。直木賞を獲った「長良川」が東京・名古屋と故郷である穂積町を中心とした西濃地域の話であることを知ったのは、着任して「地域研究」を行うようになってからだ。
その内容は書籍の1章になってから再度宣伝をするとして、今回書きたいのは(前も書いた気がするのだが)瑞穂市には郷土資料館的なものが存在しないという点について。図書館本館の郷土資料コーナーには、豊田穣の作品がほぼ揃っており、展示コーナーでは定期的にパネル・展示物替えを行いながら、瑞穂市地域についての紹介が行われている。だが、やはり手狭なのだ。展示コーナーが、たぶん30平米程度?特別展示を組むと、常設展示が引っ込まざるを得ない広さ。別府観音や富有柿の資料、杞柳ごおりや別府細工などの(近代化以降の)歴史的伝統工芸品も揃っているのだが、常時見ることはかなわない。図書館の努力としては限界だということなのだろう。
いつも愚痴めいたことを言っているのは、岐阜県内の他市町では多くの場合、常設展示の郷土資料館を持っているからである。特に2町。お隣の北方町は図書館の隣に独立した郷土資料コーナーを持っている。広さ的には「会議室ぐらい」ではあるが、町を代表する書や絵画の展示があり、季節毎の特別展示(や町民の作品展示)などがあるのはありがたい。もう1つ、御嵩町の褐炭炭鉱に「マンポ」という言葉が残っていないか調べに行ったのだが、図書館の2階が全て郷土資料館という、立派な施設だった(ちなみに郷土資料にも展示にも、マンポのマの字もなかった)。中山道御嵩宿という歴史文化的な展示もさることながら(今確認したら、そもそも施設名称が「中山道みたけ館」だった)、炭鉱についての展示も豊富で、もちろん濫掘による陥没事故の多発についても包み隠さず描写されていた。ついつい紹介されていた「どたんば」(内田吐夢監督/東映)のDVDをAmazonで買ってしまいましたわよ、私(やはり“マンポ”という言葉は使われていない)。
という規模の郷土資料館が、瑞穂市にもできないのかねえ、というのが専らの懸念。遠方から現地取材をするときに、どうしても足がかりになるのが地元の博物館と図書館の郷土資料コーナーになるので、瑞穂市を調べる人が困っているのではないかとも思うのだ。資料館があれば(そして活発な活動をすれば)、例えば川崎平右衛門を中心に府中や石見銀山などとも連携を取って動けるように思えるのだ。名和靖関連も岐阜市と協調できるだろうし、ハリヨや伏流水関連の話も近隣市町と連帯できるだろう。富有柿だって、本巣市に食われっぱなしになっている状況ではなくなる。
そんな感じの展示の一つとして、豊田穣と「長良川」(その他の作品)と瑞穂市近隣の地名対照地図などがあると良いよなあ、と思う次第なのである。まずは瑞穂郷土資料館に来て、地図を見て現地に足を向け、作品世界の往時と現在を比較する。そんな足がかりになる場所があれば、瑞穂市に興味を向ける市外の人々も増えるのではないだろうか。
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