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サブスクリプションが甦らせる名曲と世界戦略(畦地真太郎)

経営学部 畦地真太郎

 祝!Nav Katzeのサブスクリプション化1周年!(2021年4月21日より)。

 あまりにも有名なNav Katze(神経質な猫たち)については、今さらここで語るまでもないだろう。「女ポリス」との異名でも呼ばれた、ギター・ベース・ドラムの最小ユニットで構成されたロックバンドであり、1984年のデビュー以来ライブ・シーンでその名を上げていたが、1991年のメジャーデビュー以降、多方面に影響を与える存在となった。遊佐未森(「The Last Rose in Summer(1992年)」やLuna Sea(「OUT」「うわのそら」(共に1994年))との共演で話題になったのを始め、後期にはAphex TwinやAutechreなど、IDM系ミュージシャンとのコラボ・リミックスアルバムを発表した。OVA「電影少女-VIDEO GIRL AI-」への参加や、TYPE-MOONの最初期のノベルゲーム「月姫」のヒロイン・アルクェイドのキャラクター造形に影響を与えたと言われる楽曲「Crazy Dream(「OUT」収録)」でも著名である。

 おや?ご存じない?

 なぜ?

 当時、ZabadakやkarakなどのBiosphereレーベルや遊佐未森、hi-posiなど。イカ天でいうとLANPAなどのいわゆる“ネオアコ”と総称されたり、ものすごく大雑把に言うとムーンライダーズ系(ムーンは聴かんのやけど)のシーンを追いかけていた身にとっては(ここに戸川純やZELDAなどのニューウェーブや、スピリチュアルの黒百合姉妹を入れるとややこしくなるので割愛する)、Nav Katzeは欠くことのできないバンドなのである。

 初めて聴いたのは、恐らくアルバム「歓喜(1991年)」の発表直後の宣伝で出演していたのであろうFM北海道の番組だった。その時に流れた収録曲「星のパレード」を聴いて「これや!こんなんが聴きたかったんや!(当時ニセ大阪弁)」と飛びついた自分の直感は正しく、その後の人生の中心にあると言っても過言でないほどのハマりかたをしたのだった。

 Nav Katzeの特徴は、短いコード進行のジングルをつなぎ合わせていき、その上に象徴的な歌詞が乗るという楽曲の作り方にある。だからこそIDMとの親和性が高かったのだろうし、老いを刻み時を移るごとに新たな解釈ができるような深みを帯びているのかもしれない。それぞれの歌は「天使」「永遠」「世界」「海」「夢」「光」「闇」などをキーワードとした「きみ」と「ぼく」の1つの物語を構成していることが多い。これは2000年代に流行した“セカイ系”の特徴であり、先の「月姫」の挿話にあるように、そのバックボーンを築いたバンドの一つであるとも言いうるだろう。

 ということで、コンピレーションも含めて全ての楽曲はCDで所持しているつもりなのだが、それでもサブスク化した意義は大きい。1つは高音質リミックス化、2つめは新たなトラック音盤化、3つめは世界戦略である。

 1つめの高音質リミックス化については、一貫してNav Katzeのエンジニアを務めた杉山勇司氏によるYouTubeでの解説に詳しい。私はフリーソフトで自分の授業ビデオの音声トラックをいじる程度のことはしているのだが、「プロってそんな大胆なイフェクトのかけかたして、破綻しないんだ!」という驚きがある。ここでは「サブスクはスマホのイヤホンで聴くことを前提とした音作りを心がける」という言に納得。手元のCDから吸い上げた音源も技術進歩に従い何度も作り直しているのだが、同じiTunes Plus形式(AAC256kbps)でも、サブスク盤の方が断然、音がスッキリしてるんだよなあ。

 2つめの新たな音盤化。様々な方法、粘り強い(ネットも含めた)中古店めぐりにより、世に出ているとされているトラックは全て入手している…と自負していたのだが、リリースしなかった曲やデモ盤、ライブ盤は、さすがに無理だよお。サブスクによる大収穫は多くのボーナストラックが追加されたことで、個人的にNav Katzeのベストテイクだと思っている「光の輪(「The Last Rose in Summer」収録)」のデモ盤が公開されたこと。一方で、恐らくシャウト者の権利が取れなかったのであろう、「新月(1991年)」収録曲「遙かなるCross」の収録が見送られているのが残念。ネット時代になり、発表時に予想もしなかった権利関係に悩まされることは、アカデミックの世界でも経験しているところだが、音楽関係はさらに厳しいようだ。(サブスクの場合、昨日まで聴けていた洋楽アルバムが、いきなり数曲だけ聴けなくなってしまうことを多々経験しているし)。

 3つめの世界戦略については、これから期待したいことである。サブスク化により音楽の国境が本当に薄くなっている。私の場合だと、例えば現在、Gothic、Ethereal系やNew Age系を中心に、CD店めぐりをしていた時代には目にすることもできなかったであろう、オーストリアやイタリア、韓国などのマイナーレーベルからリリースされているアーティストの楽曲に、Spotifyのお勧め経由で触れることができている。逆に世界的には、日本発とされているLo-Fi Beatの潮流や、私が子供の頃(1980年代)に流行っていたらしいけれども漠然としか覚えていない「シティ・ポップ」のブームが起こるなど、時代や国籍を超えた音楽のバズが常識となっている。イカ天出身で、私もジワジワと聴いていた「人間椅子」が、デビュー30年を経て海外進出をしたのは、記憶に新しい(作風が変わらないのに、老いてなお研ぎ澄まされ続ける音作りは、本当にすごい)。

 Nav Katzeも世界進出できるはずである。いや、必ずこれから爆発的にバズるに違いない。

 Nav Katzeには、今でも日本のサブカルが色濃く持つ“セカイ系”の元となった世界観が現れている。楽曲的には、IDM方面からのオリジナル探索への流入が見込まれる。Lo-Fi Beatにも共通する適度なChill感、気だるい反復感も持ち合わせている。世界市場から注目されないことがあるだろうか、いやない。

 ということで、私にとっては布教30周年を迎えたNav Katzeであるが、これを期に新曲が出ないのかなあ、と微かな期待を抱いたりしている。最後のオリジナルアルバムは「Gentle & Elegance(1996年)」で止まっており、そこからは“活動休止”状態が続いている(厳密には濱田マリ(モダチョキの方)に1997年に楽曲提供している)。先に挙げた杉山プロデューサーの動画には、復活はどうでしょう?のような言があるのだが、さてどうだろうか。新曲を待ち続けてFrozen Flower(「The Last Rose in Summer」収録、OVA『電影少女 -VIDEO GIRL AI-』挿入歌)のようになっているファンのために、鮮やかな光の花を見せてもらえれば嬉しいのだが、どうだろう。

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