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シェルブールの山笠 (畦地真太郎)

 主演のカトリーヌ・ドヌーヴが魅力的で、主題曲がスタンダードとして知名度の高いミュージカル映画である。というわけで「どおすこい山笠仮面見参!!」「うおおお山笠のあるけん博多たい」(安永, 1985)の名台詞でも有名な博多に取材に行ってきた。

図1 博多祇園山笠

 博多祇園山笠(図1)は、ユネスコ無形文化遺産の「山・鉾・屋台行事」に登録されている祭りの一つである。中京地域では私が尊崇する津島神社の「尾張津島天王祭の車楽舟行事」の他、桑名の(日本一うるさい)石取祭、犬山祭。岐阜県内では高山祭、古川祭、大垣祭りが登録されている。全てがそうという括りではないが、多くの祭りの根底には御霊を鎮魂し、都市部の疫病蔓延を慰撫しようという信仰がある。博多山笠と津島の船祭りは同根であり、若干系統が違うとは言えども、両方とも午頭天皇(素戔嗚尊)に奉納されることでは同じということになる。なお、京都の祇園祭(八坂神社)と同様に、いわゆるチャンチキ(摺鉦)が入るお囃子(コンチキチ)を流すことが多く、桑名の石取祭(祭神は春日さまがメインに出ているが、主神は多度大社と同じ天津彦根さま)はその最たる物というか、極北にあると言える。すげえぜ。

 さて、大祭が行われる櫛田神社は、都市の真ん中にある人々に心から愛されている神様という印象を受けた。大阪で言うと天満宮(天満さま)、東京で言うと神田明神さまのような雰囲気の良さ。こじんまりとしていて、非常に整備されていて、明るい。そして、薄暗く恐ろしい。不敬を働いてはならない、御霊様特有の雰囲気のある神社であった。そりゃあ祭りが荒々しくも爽快な気迫を持つものになるわな。あれ?今回のネタ大丈夫かな?(大丈夫じゃなかったら、しいたけヨーグルトの海に沈もう…)。

 全国に広がる御霊会・山鉾祭りの一つとしての山笠だが、もう一つ地方間のつながりと言えば、開催時に必ず「祝いめでた」と呼ばれる歌から始まるという習慣があることだ。“めでた”は日本各地に伝わる誉み謡であるが、岐阜では飛騨で(祝い事の)宴会がある時に必ず唄われる「めでた」が有名である。全国での歌詞には一貫性があるようだが、節回しは正直なところ差異がよく分からない。こちらについては、少々調べてからまた記事にするかもしれないし、しないかもしれない。

 ということで、神様つながりでの日本各地の祭りの共通点を改めて確認することになったのだが、今回の幅広い取材旅行の目的の一つである「博多仁和加(にわか)」も取材してきたので、後半はその話題をば。

図2 博多仁和加の面を意匠としたアイマスク

 にわかと言えば図2の面で有名な博多の伝統芸能である。今回は櫛田神社様にほど近い博多町家ふるさと館で月2回ボランティアの方々が公演されているのを拝見してきた。基本的には風刺の効いた地口落ちの漫談で、一人で落とすものから掛け合いで長めに“漫才”的にするものまでバリエーション豊かである。ただ1つの難しい掟が、地口落ちの言葉が「完全に一致してなければあならない」ということ。今回聞いたのは「ロシアの大統領は気が短い言うけん。プーチンっとくるばい」というものだったが、原理的にはこれは反則ギリギリということになる。あと、エアグルーヴと俺のやる気が下がった。ボランティアの方々は、さすがの練度を保っており、当日見学者からのお題も受け付けていた。試しに「母里太兵衛!」とお声をかけたところ、「母里太兵衛という人は、大変、気持ちば優しい人だったたい。おもいやり(重い槍、思いやり)ば持っとったろうもん」と、見事な返しをしてくれた(後で思い返すと、多数ネタなのかもしれない)(参考:黒田節(Wikipedia))(博多弁がおかしいのは、記憶で適当に書いている筆者責任)。

 こういう伝統芸能が生きているのが、文化が高いことの証明なんだよなあ、と思いながら拝聴していたのだが…実は岐阜には「美濃流し仁輪加」という伝統がある。こちらは2023年度は4月8日(土)に、コロナぶりに開催予定。美濃市の“古い町並み”を練り歩きながら辻辻でにわかを行うという行事らしい。というのも、こちらは勉強が足らずに、実見してみて情報を得ようと思っているのだ。ネタが終わると「エッキョウ!」と掛け声をかけなければならないようだが、エッキョウってなんだろう…。

 コロナ明けの鬱憤を晴らすように取材旅行に出た博多・福岡であったが、何やかにやで想像以上の収穫を得ることが出来た。地域に特有の文化の背景には、実は他地方と共通する部分、起源を同じくする部分も多いのだなあ、ということを改めて実感した。というか、九州(といっても宿泊は福岡だったけど)に1週間も滞在したのは初めてだったので、色々と新鮮な経験だった(建築物の地震係数が低いせいらしく、ビルの柱が細くて怖かった)。

 本当は「うどん発祥の地、博多」や、北九州市名物「肉うどん」の取材がメインだったのだが、こちらについてもやっぱり書いたり書かなかったりするつもりである。

<引用文献> 安永航一郎 (1985) 勇気あるお誘い, p. 178. In: 県立地球防衛軍, vol. 3, chp. 7, pp. 161-184, 小学館, 東京.

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