山田昇司
はじめに
ネット上には無料で使える翻訳ソフトがいくつか見つかります。みなさんはこれを使ったことがありますか。1年生の人の中には英語Ⅰ・Ⅲの遠隔授業で出された課題ではじめて使ったという人が多いのではないかと思います。これから読んでもらう連載は、その翻訳ソフトをどのように使ったら上手く使いこなせるのかについて筆者の考えをまとめたものです。全体では7つの節がありますので3回に分けて掲載します。おもしろそうだと思ったら読んでみてください。(山田昇司:英語担当)
「翻訳ソフトと上手につきあう方法」
第1回 1.翻訳ソフトとの出会い
2.企業でも使われる翻訳ソフト
第2回 3.翻訳ソフトと英語の授業
4. 翻訳ソフトは「考えない」
5.誤英訳を少なくする工夫
第3回 6.翻訳ソフトの「前文参照機能」
7.翻訳ソフトが苦手な「分配よみ」
連載 第1回
1.翻訳ソフトとの出会い
私が翻訳ソフトを本格的に利用するようになったのはつい最近のことである。所属している研究所の所長である寺島隆吉氏(元岐阜大学教授)が研究所の掲示板(2019/11/28)で「グーグル翻訳」と「みらい翻訳」を紹介されたことがそのきっかけだった。
この研究所は「国際教育総合文化研究所」の名が示すように、研究テーマは「英語教育」にとどまらず「国際教育」「平和研究」「教材作成」「文献翻訳」さらには「食文化」「健康法」などにも及んでいる。研究所はそのブログとして、寺島先生ご自身が発信される『百々峰だより』にくわえて、授業実践を掲載する『「英語教授法 寺島メソッド」同好会』、大手メディアが報じない海外記事の翻訳を紹介する『寺島メソッド翻訳NEWS』を持っている。この『翻訳NEWS』スタッフから1人の研究員が事情により離脱することになり、その対処方法として寺島所長は翻訳ソフトの活用を勧めたのである。
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(前略)… とは言え、ひとり欠けた分を何かで補わなければなりません。そこで思いついたのは「グーグル翻訳」を下訳として利用する方法です。
最近の「グーグル翻訳」は驚くほどの目覚ましい進化を遂げましたから、これを利用すれば大いに労力が短縮されるのではないでしょうか。
実を言うと、『マスコミに載らない海外記事』も「グーグル翻訳」を下訳として利用しているフシがあります。というのは、ときどき下訳の一部を消し忘れた痕跡が、アップされた翻訳に残っていることがあるからです。
ぜひ試してみてください。
<追伸>
最近、「グーグル翻訳」と同じくらいに注目され始めたのが「みらい翻訳」というサイトです。これもお試し版が無料で利用できます。
https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/yajiuma/1182009.html
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私はこの年度(2019年度)の後期は看護学科「文献講読」を担当していたのだが、その投稿を読んだときは、ちょうど締めくくりの課題であるエッセイ・ライティングをどう進めるかについて細部の詰めの思案をしていたところであった。
2.企業でも使われる翻訳ソフト
私はこの、寺島所長の投稿を読んで翻訳ソフトを学生にも一度、使わせてみてはどうかと思い始めた。というのも、これからは翻訳ソフトを上手く利用できることも英語力の一部になるのではないかと考えたからである。
実のところ、英語教師である私自身もこれを使うと、とても便利なことを実感していた。おもしろそうな英文が見つかるとそれをソフトに入れるのだが、たちどころに翻訳が出てくる。それで大意は理解できる。もちろん意味の通らない日本語がいくつか出てくることもあるので英文にもどって確認するのだが、いずれにしても大量の英文がすばやく読めて情報が手に入る。英訳するときも、辞書で語彙を拾う手間が省けるし、細部の点検は必要だが、だいたい意味の通じる英文が出てくる。
最近、偶然だが、ビジネスマン向けの週刊誌に次のような記事を見つけて企業内でも活用されていることを知った。フリーマーケットアプリを運用しているメルカリという会社での社内英語教育を紹介した記事であった。
授業は会話力のレベルアップが最優先され、社内のレベル分けテストもスピーキングに特化。相手にすぐ反応しなければいけない会話に比べると、ライティングは時間的余裕がある。翻訳ソフトなども使って業務を乗り切りながら、自主勉強して磨いてもらう前提だ。(「週刊ダイヤモンド」2019年3/16日号 p.47)
この号の特集テーマは「最新ビジネス教養を語り合う エリート英語」であるが、他にも注目すべき話が書かれているので以下に紹介する。
さて、英語での雑談がままならない場合、不足しているのは英語力だけなのか。/話題に対する知識がそもそも浅くはないだろうか。/世界の動向を把握していなかったり、日本の状況を深く知らなかったりする。英語力以前の問題だ。これでは盛り上がるはずもない。(p.31)
研修では、まず話の目的を定め、メッセージを明確にする。次にどんな順番で語るか、ストーリーに落とし込む。英語表現を考えるのは最後でいい。それにとらわれると、中身がお粗末になるからだ。(中略)母国語でおろそかになりがちなスピーキングの技術を鍛え、話の中身を磨いた上で、英語の最適な表現でまとめる。ここで「英語が完璧か、文法が正しいかは焦点ではない」(ピアソン社長)肝心なのは「話の中身」である。(pp.32-33)
なお、ふたつめの引用は三井物産における「海外赴任直前英語スピーキング研修」に関する記述である。海外に赴任するエリート達はきっと英語ができるから選ばれたのだろうが、その人たちが「話す中身」「英語力以前の問題」で研修をうけている点は実に興味深い。
私はこれを読んで以前に寺島先生から伺ったポーランド出身の数学者ピーター・フランクル氏の話を思い出した。彼は日本語を含めていくつかの言語に堪能なのだが、数学の学会での発表について「以前は日本人は英語は下手だったが、内容がおもしろいので熱心に耳を傾けた。しかし近年は英語は上手くなったが、中身がつまらないのであまり聞く気がしない」と述べている。
また次の箇所も目にとまった。「まず話の目的を定め、メッセージを明確にする。次にどんな順番で語るか、ストーリーに落とし込む。英語表現を考えるのは最後でいい。それにとらわれると、中身がお粗末になるからだ」。というのは、すぐに英語を書き出すのではなく、まず話す内容を練ることの大切さを言っているからだ。そして日本人であれば当然、その作業は日本語で考えて書き出してみて、話の中身を練ることになるだろう。
簡単で短いメッセージ程度ならば、その案を英語で考えることができるかもしれないが、新しいアイディアを構想したり、読み手の興味を引くような順序に並べかえるなどの、さまざまな創造的思考をともなう知的な仕事は母語でしかできないと私は思っている。
翻訳ソフトとの関連で言えば、翻訳するに値する中身があってこそ、それはその力を発揮して真に役立つものとなるだろう。では、実際の授業の中でそれをどのように活用したらいいのか。次節ではそのことについて考えてみたい。(続く)
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