櫻木晋一
今回からアジアを離れ、ヨーロッパに目を転じて、まずはイギリスの大英博物館での調査についてお話します。私は2001年から1年間ケンブリッジ大学に留学したのですが、その間に快速電車で1時間ほどかかるロンドンに出かけ、大英博物館が所蔵している日本貨幣の調査を実施しました。この博物館には、エジプトのヒエログリフ(=象形文字)が読めるきっかけとなったロゼッタストーン(写真1)が展示されていることで有名ですが、コインの専用展示室もあるのです。読者の皆さんがロンドンを訪れた際には、日本貨幣の富本銭や大判・小判なども展示してありますので、時間があればのぞいてみてください。ちなみに、イギリスにある博物館の入場料は原則タダです。(入口に募金箱が置いてあるだけ)この調査結果は、大英博物館からカタログ(写真2)として出版されています。朝日大学の図書館にも配架れているのでご覧ください。この本は英語で書かれていますが、貨幣はすべて写真を載せているので、日本人にも分かりやすいものになっていると思います。
ここの日本貨幣は、江戸時代の丹波福知山藩第8代藩主朽木昌綱(1750-1802)の収集品が中核のひとつとなっています。昌綱はオランダ語が堪能で、地理書なども著した学者大名であり、コインのコレクターでもありました。大名の財力を使って収集したものですから、日本貨幣の優品が揃っており、大変貴重な資料なのです。幕末に流出したと伝えられている彼のコレクションは、巡り巡って1884年にディーラーのウィルス(Wills)から合法的に購入されており、オックスフォード大学アシュモリアン博物館にも収蔵されています。
特徴的な貨幣を紹介すると、富壽神寳(818年初鋳)の母銭(=お金を作る原形となるお金、写真3)はここにある1点しか知られていません。富本銭(写真4)3点も所蔵されており、これらはすべて昌綱コレクションです。また、昌綱コレクションではないのですが、慶長小判の中央にオランダ東インド会社のマーク(立った獅子)が打たれたものが2枚所蔵されています(写真5)。日本から輸入した小判に自社のマークを打ち、インドネシア近辺で使用されていたものです。当然、この種の小判は日本には存在せず、世界でも5枚しか確認できていないものなのです。
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