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貨幣調査よもやま話⑥~デンマーク編(櫻木晋一)

櫻木晋一

 今回は、デンマーク国立博物館での日本貨幣調査について話します。有名なアンデルセンの人魚姫の像が海辺に置かれ、チボリ公園があることでも知られているコペンハーゲンには、これまで調査のため4回出かけました。この博物館には、デンマーク人クレブス(Otto Krebs,1838-1913)と31歳で早世したブラムセン(William Bramsen,1850-81)が収集した日本貨幣約1200枚が収蔵されています。

 若きブラムセンは敷設された海底ケーブルを使う電信士として来日し、郵便汽船三菱会社の重役であったクレブスに誘われ、のちに三菱会社の社員となりました。日本人を妻としたブラムセンは、日本書紀に書かれた初期の天皇の年齢が百歳を超えていることに疑問を持ち、暦の研究をして「和洋對暦表」も著しています。彼らは古銭の収集家としても日本で活動し、持ち帰ったコレクションがこの博物館に収蔵されていますが、ほとんど誰にも知られることなく、ひっそりと眠っているのです。彼らは横浜の古銭界と関わり、入手した収集品は当時一流のもので、多くの金貨・銀貨を含んでいます。通貨だけではなく、玩賞品の金貨などもあり、彼らの興味の対象を知ることができます。

 私は近い将来、この全貌を大英博物館と同様のカタログとして出版するために作業をしています。海外に眠るこれらの日本史資料を調査し公開することが、日本貨幣の研究者として私の責務であると考えています。この仕事によって、百年以上前に日本とデンマークの架け橋を作った人物に、再び光が当たれば本望です。

 デンマークはEUの一員ですが、通貨単位はクローネで、やや物価が高いと感じる国です。しかし、セブンイレブンもあり、地元スーパーのイヤマや磁器のローヤルコペンハーゲンも有名で、王室が存在することや落ち着いた街並みなど、日本人とって親しみやすい雰囲気の国だと思います。私は調査で海外に行くことが多いのですが、若いころは観光をすることもなく、研究オンリーでした。しかし最近では、これが自分にとって最後の訪問になるかもしれないと思うと、俗にいう観光地にも足をのばしてみることにしています。日本史の専門家でありながら、多くの外国人研究者たちに助けられ、海外でも研究が続けられる幸せを実感している今日この頃です。

凍った海辺にたたずむアンデルセンの人魚像(2018.2.28.筆者撮影)
コペンハーゲンのカラフルな海辺の建物群(筆者撮影)
左がブラムセン、右がクレブスのコインキャビネット
(デンマーク国立博物館での調査打ち合わせ)
万延大判金(1860-62)

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