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日本うどん学会第19回全国大会参加報告 (畦地真太郎)

 日本うどん学会は実在する。

 実在するんだってば!

 残念ながら学術学会認定はされていない(なんとならば“うどん学”専門の研究者というのが存在しないから)のだが、うどんを中心とした麺類、食品を幅広く研究している学会である。さらなる特徴としては、学術目的だけではなく「うどんが好きだから」という志だけでも参加でき、交流を深めて知見や人的ネットワークを広めていける場でもあるということである。現状の事務局やコアメンバーは大学教員が多いのだが、かつてはジャーナリストや製麺業者、現在は(食品・飲食業だけではない)企業経営者なども多く参加しているという、実に幅広い学会である。

 そんなわけで、相変わらずコロナがなんとかの状況の中、9月17日懇親会、18日研究発表大会に参加するために、東京に行ってきたのであった。

 懇親会は新宿にある「讃岐うどん大使 東京麺通団(リンク先は食べログ)」で行われた。この店は、2000年前後に興隆した讃岐うどんブームで、チェーン店が「讃岐うどん」を標榜する中、本物の讃岐うどんを世に広めようと開業された店舗である。今はチェーン店の席巻により、あまり珍しい形式ではなくなってしまったが、香川式セルフの店となっている。なお、さすがに出汁は深い。

 どちらかというと学会は懇親会が本番。うどん県のうどん施策にも深く関わられている前学会長と「だから岐阜県も、香川県ぐらいしっかり花火を上げるべきなんですよ!」「地域振興のためには継続した一発だけではなく継続した地域資源の対外アピールが必要」と、激論のような意見一致のようなことをお話しした気がするのだが、ビールの飲み過ぎであまり覚えていない。対面にお座りの、翌日の講演発表者である飲食コンサルタントの先生とも「飲食店9割潰れる!」「経営学部は何してる!?」みたいなことをお話ししていたような気もするのだが、こちらも朦朧としている。酒の上での様々な多大なご迷惑をおかけしながら、翌日の研究発表大会になだれ込むのであった。

 研究発表大会は、今年度は学習院大学の担当。テーマは「全国のうどん、ドンと来い東京へ!」。幹事校の先生からは「だじゃれ縛りはキツいので、我々の世代で止めましょうよ」と言われているのだが、伝統となっているので仕方がない。ちなみに今年はわしが考えた。「ドンと来い」という割には、やはりコロナ余波が残っており長距離移動を控えられる方が多く、会場参加は少なめ。とはいえ、一方遠隔配信によるハイブリッド参加も可能となっており、時代の進歩を感じされられた。

 基調講演は、東京麺通団の立ち上げと、コロナ禍における飲食業界の動向、展望について。様々な裏話、実務の問題などを伺えて(なのであまり詳しく書けない)、本当は経営学部の学生さんに是非聞いてほしい内容だった。

 研究発表は、まずは前学会長の「コロナ禍における讃岐うどん」。香川県ではここ10年ほど「年明けうどん大会」という、全国からうどん店が参加するイベントを開催しているのだが、2020年、21年の12月については、開催が危ぶまれていた。というより、香川県では(岐阜県と同様に)全てのイベントが止まっていた。にもかかわらず、年明けうどん大会は参加人数を大幅に制限しながらも感染対策に十分な注意を払いながら実施したというのだ。この心意気が、うどん県のうどん県たる面目躍如というところだろう。

 2つめは歴史学の先生による、東京六本木の「饂飩坂の謎」。坂の多い六本木に、江戸時代に開業していたうどん屋にちなんだ「饂飩坂」という坂があるのだが、これと近隣の「芋洗坂」について、時代や文献によって位置が変化する(というか明白ではない)というのだ。地域の地名が、実は時代により、人により異なる呼び方なのではないかという興味深い研究だった。

 3つめは哲学の先生による、うどんの脱構築。すでに「脱構築」という言葉自体が尋常ではない(ポストモダン哲学では尋常)。うどん研究だけではなく、食文化研究全体に関わる話なのだが、我々がうどんと称しているもの自体が地域性や同時代性に限定されており、その限界を示しながら研究しないと危険なのではないかというお話しだった。これは、実は前学期のうちの2年生ゼミで経験したことであり(最初に“うどんの畦地ゼミでの今回の暫定的定義”を決めてご当地うどんを収集・作り方の分析を始めたにもかかわらず、最終的に“暫定的定義”が無意味なほど包括的な共通点が存在しなかった)、「文系の研究」の難しさを再確認するところとなった。

 さて、ここでお得なご案内。

 今、日本うどん学会に入会された方には、上述の研究内容が論文として記載された学術雑誌「うどん道・第19号」が、来年3月末を目処に配布されます。それだけではございません。なんと今なら、昨年度発行の「うどん道・第17・18合併号」もついて、年会費は変わらず4000円!さらにさらに、学生会員は年会費が半額でお得な2000円!お申し込みは今すぐ、staff@udon.doまで!

 いや、今年は畦地が事務局を引き受けているので、研究室のドアを叩いてもらうのでも、授業の終わりに教えてくれるのでもいいんだけど。当学会がうどんのみならず、あるいは、うどんをネタにして幅広い研究に取り組んでいる学会であることがお分かりいただけたのではないかと思われる。リアルに興味がある方は、まずは冷やかし程度にでもお立ち寄りあれ。

 ちなみに畦地の専門は、東北から関東にかけて広く食べられている「はっとう(ほうとう)」である。なお、うどんより蕎麦好きを公言しており、学会内では裏切り者扱いされている。

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