経営学科3年 朝田紗矢
1.はじめに
私はマーケティング分野について学習するゼミに所属しており、将来はその学びを活かせる仕事に就きたいと考えている。この目標を達成するために、幅広い知識を身につけ、マーケティングに対する理解を深めるという目的を持ち、本研修に参加した。中でも、一連のマーケティング活動で重要となるBtoB間の物流事業に主眼を置いた。
さらに、タイへ進出した日系企業の訪問を通して、高品質なサービス・商品の提供のための取り組みを学びたい。私は昨年、ベトナム海外短期研修に参加した。訪問先の企業で、日本基準に合わせた厳しいルールのもとで働く現地従業員や工場の見学、サービス・商品の品質を保持するための活動を知った。タイに進出した企業でも同等の取り組みが行われているのか、現地従業員に意識の違いはあるのかといったことを比較し、今後も海外に増え続けるであろう日系企業のあり方を考えたい。またタイとベトナムは東南アジアの中の発展途上国としてひとくくりに認識することが多いが、インフラ整備をはじめとする街中の環境などに関して、発展具合が異なる点があると考える。ほかにも、文化や食事、国民性についてベトナムをはじめとするアジア諸国と比較し、タイの現状や今後の成長について考察する機会としたい。
2.荷主における海外戦略
日系企業の海外への進出は、年々増加している。2006年の日系企業の海外現地法人数は1万6370社であったが、2016年には2万4959社へと、10年間で大幅に増加した1)。特にASEANを含むアジア地域への進出が著しい。アジア地域への進出の理由として、市場規模の拡大が考えられる。現在の日本はモノやサービスが溢れかえっており、飽和状態である。生産拠点や販売拠点をアジアへ広げていくことで、現地のニーズと合致するような商品を提供したり、ニッチ市場にも目を向け、ビジネスを展開していくことが可能である。
また、アジア地域に若年層が多いことも進出理由の一つであり、ビジネスを展開しやすくなっていると考える。高齢化が進む日本と比べ、ASEAN地域は若年層の割合が高く豊富な労働力があるため、労働市場はもちろんだが、消費市場としての発展も期待できる。
さらに、日系企業の進出によってアジア地域へ日本人の移住者が増加していることも、当地域での日系企業の事業に関係している。実例として、本研修で訪れたタイのシラチャには、約1万人の日本人が住んでいる(2016年時点)。日本人の増加に伴い、ショッピングセンターや日本食レストラン、さらにはコンサルタントや会計事務所といったサービス業が次々とシラチャへ進出している2)。こういった海外に住む日本人の需要に対応する事業も、日系企業の新たなビジネスチャンスとなっている。
3.物流事業者の海外戦略
日系企業のグローバル事業展開に伴い、企業活動を支える物流企業もグローバルな事業展開を進めている。活動拠点が海外に移ることにより、原料の調達や生産、販売活動を一元的に捉え、管理し、その地での最適化を目指す必要がある。そこで重要となってくるのは、輸送のほかに保管や荷役、流通加工といった機能を担う物流だ。これらの総合的な物流サービスに付加価値を加えた事業に、多くの物流企業が取り組んでいる。トラック輸送において、国境で荷物を積み替える必要がない国際混載事業(例:西濃運輸等)や、貨物の引き受けから引き渡しまでをサービスを付け加えながら一貫して行う国際複合一貫輸送(例:濃飛倉庫運輸、ヤマトロジスティクス等)など、現地での最適化を目指したあらゆる事業を展開している3)。
さらに、日本国内で培った定温物流サービスや、個人向けの宅配便サービスといった事業にも取り組んでおり、今後の成長が見込まれている。また、西濃運輸がタイのサハグループの傘下にあるように、自社の物流ネットワーク網を拡充し、よりグローバルな事業を展開するために、海外事業者との提携やM&Aが積極的に行われている。2015年に発足したAECや、タイ・ミャンマー・カンボジア・ベトナムの四か国をつなぐ南部経済回路の開通、ハブ化を狙う現在建設中のインドネシアの新空港など、アジア各国では物流ネットワーク・交通インフラの整備が進んでいる4)。これらの物流ネットワーク・交通インフラの整備に伴い、海外拠点で活動する物流企業は事業の幅を広め、新たなビジネスにも着手できるようになるのではないかと考える。
4.現地で活躍されている方々に聞きたいこと
事前活動として、タイで活躍されている日系企業の方々に聞きたいことについて下記の質問を事前に設定した。
・今後の交通インフラの整備と輸送事業の展望
・キャッシュレス化に対する銀行の動き
・BtoB事業という枠での企業活動でこだわりをもって取り組んでいること
・海外で事業を展開していく上で重要なこと
5.検証(現地活動)
5.1 大垣共立銀行バンコック駐在員事務所
大垣共立銀行のタイ・バンコクでの主な事業は、顧客企業のタイ進出支援の強化と、進出した企業のサポートである。現地での資金調達や、経済、金融動向に関する情報提供、商談会の開催などで事業を支える。交通の便利性が高いシーロム地区に立地する。
臼井所長からタイでの事業内容のほかに、ビジネスにおいて必要なことについても学んだ。それは、突破力が大切だということである。ビジネスの相手と交渉する際は、世界から信用の高い日本人という武器や自分の熱意を、セールス力で最大限に発揮し突破していくことが、ビジネスの成功につながる。ビジネスに対する臼井所長の熱量を感じたと同時に、海外で事業を展開するには幅広い知識や覚悟、熱い気持ちが必要であると考えた。
5.2 バンコック銀行
バンコック銀行はタイ国内最大の商業銀行で、大垣共立銀行と提携を結んでいる。1944年に創業され、タイ国内には1166支店、国外には32拠点をもち、日本のメガバンクとほぼ同等の規模である(2019年2月現在)。タイ企業や日系企業への預金・融資などの金融サービスをはじめ、個人向けのサービスも展開している。企業向けの資金調達などのサービスはバーツ建て取引を基本としており、為替リスクの回避が可能である。個人向けサービスでは、預金口座の開設や、クレジットカードの発行などを行っている。日本語での対応が可能なカウンターも設けておりタイ人のみならず、現地に住む日本人の生活もサポートしている。
5.3 JETRO・バンコク
JETRO(日本貿易復興機構)は、日本と諸外国との貿易を促進し、経済発展を目指す機関である。日本企業の海外進出のサポート、進出先の経済活性化のサポート等の活動を行っており、日本と諸外国間の潤滑油の役割を果たしている。海外の経済情勢や政治情勢のほか、産業動向、投資環境など幅広い分野に関して調査・研究を行っている。それらの情報を日本企業に提供することで海外進出を支援し、ビジネス活動の発展に貢献している。
また、販路紹介や小売価格などのデータ調査、投資相談などのサービスも実施している。これらのサービスにより、企業の新たなビジネス展開をサポートしている。
5.4 あいおいニッセイ同和損保タイ
あいおいニッセイ同和損保は、損害保険会社であり、タイでは保険会社1社と損害保険ブローカー1社の現地法人が事業を運営している。自社系列の保険商品のほかに、他社の保険商品も幅広く取り扱っている。そうすることで、お客様の多様なニーズに合わせた保険商品の提供を可能としている。取扱商品は自動車保険や火災保険、海上保険、生命保険など多岐に渡る。その中でも、事業全体の50%以上の割合を占める、自動車保険のトヨタリテール事業に力を入れている。トヨタが取り扱う自動車商品に当保険を付帯する事業で、迅速な事故対応や、ディーラーとの協働による入庫誘導を実施している。
5.5セイノー・サハ・ロジスティクス
セイノー・サハ・ロジスティクスは、2015年にタイのサハグループとセイノーホールディングスによって合弁で設立された。シラチャに本社を設けており、倉庫業や物流加工、国内輸送等の事業を行っている。
実際に商品が保管されている、シラチャの倉庫を見学した(写真1)。大塚製薬やエリエール、Thai President Foodsなどの商品が多く見受けられた。商品はそれぞれバーコードと番号で管理されている。タイは地震が少ないということもあり、保管してある商品は天井まで積みあげられていた。
BtoBの事業を主に行う同社は、貸切トラックで商品輸送を行うこと、顧客のニーズに柔軟に対応すること、事業内容を絞ることで安定した業務を行うことを重視している。リードタイムの低減、コストの削減が可能なクロスボーダー輸送や、効率化が図れるトラッキングシステム等を導入・活用することでタイでの輸送事業に貢献している。
5.6 Thai President Foods
Thai President Foodsは、即席麺を製造するタイの企業である。ママーブランドを生産する同社は、タイ国内での市場シェアを大きく占めている。
今回は、工場見学と即席麺の試食を行った。カップ麺は、国内流通用と国外輸出用で容器が異なる。国内流通用は紙のみの容器だが、国外輸出用は紙とプラスチックを重ねた容器にすることで、輸送中に外部からの衝撃によって潰れないようにしている。試食は、Salted Eggヌードル(塩漬け卵味のヌードル)とガパオヌードルの2種類を頂いた。ガパオヌードルに関してはタイ国内への流通はもちろん、フィンランドやアメリカへの輸出も多く行っている。
6.タイにおけるモータリゼーション
バンコク市内は非常に交通量が多く、自動車やバイク、バスなどが走行していた。昨年訪れたベトナムのホーチミンは街中がバイクで溢れていたが、バンコクは圧倒的に自動車の割合が高かった。日本には無い交通機関として、三輪自動車やオートバイを改造したトゥクトゥク、バイクによって乗客を移動させるバイクタクシーなども多く目にした(写真2)。バンコク市内の交通事情の最大の特徴は、渋滞である。主な原因は、近年の自動車の所有台数の増加や、道路の未発達であると考える。2015年は約191万台だったタイの自動車の生産台数は、2017年には約199万台へと増加した5)。さらに販売台数に関しては、2015年は約79万台であったが、2017年には約87万台へと増加した。2018年には100万台を超えた6)。国外への大量輸出はもちろんだが、タイ国内での自動車所有者が急激に増えたことも、生産・販売台数の増加に深く関係していると考えられる。市内にはBTS(高架鉄道)とMRT(地下鉄)が通っているが、郊外までは通っていない。それゆえ郊外へ行くためには自動車が必須であり、生活になくてはならないものとなっている。また、市内は抜け道が少なく、一方通行の箇所や舗装が充分でないデコボコした道路も多くある。スコールが降った後の道路はたちまち冠水し、走行の妨げや事故の原因となっている。
今後の課題としては、交通量の増加に伴った道路整備を行うことや、郊外の公共交通機関の整備がある。
7. おわりに
本研修はタイで活躍する日系企業を訪問し、貴重な話を聞ける良い機会となった。目的の一つであった物流事業の現場を実際に見学し、BtoB事業に関する新たな知識を得ることができた。それぞれの企業がタイで展開している事業についても詳しく知ることができ、海外で活動する日系企業に改めて尊敬の念を抱いた。
また、ベトナムをはじめ自分が今までに訪れた国と比較することで、タイの街中の環境や交通インフラ、文化、食事についても理解を深めることができた。
本研修で得た学びを今後の大学での授業やゼミ活動に活かし、専門分野であるマーケティングのほかにも、さらに視野を広げた学習を進めていきたい。
(2018年度経営学部短期海外研修報告〔タイ〕)
参考文献
1)経済産業省 海外事業活動基本調査 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result-1.html
2)ジェトロセンサー 2016年11月号 タイ シラチャ(事前研修資料)
3)日経産業新聞 1998年1月28日 西濃運輸混載貨物事業(事前研修資料)
4)日本経済新聞 2018年10月18日 インドネシア新空港(事前研修資料)
5)JAMA-世界生産・販売・保有 jama.or.jp/world/world/world_t2.html
6)自動車販売台数 タイ https://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_thailand_2015, 2016, 2017,2018
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