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  1. 海外研修報告
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タイに拠点を設立した企業の変化(レンワン タナート)

経営学科3年 レンワン タナート

1. はじめに

 私にとって今回の研修は、経営に関わる国際ビジネスや物流、特に海外に拠点を設立する企業戦略を実際に見られる好機でした。ASEANの中ではタイがどの点で有利かが知りたく、今回の研修に参加した。海外の企業が現地の労働者を雇うことになるが、タイの労働者というと、タイ人だけではなく近隣のミャンマー人やラオス人、カンボジア人などがいる。特に今回研修する場所は外国人労働者が集まっているところである。タイにある海外の企業はどの国の人を雇っているのか、またその理由を知りたい。

 この研修では、現在、岐阜県第一の売上高である西濃運輸が、タイではどのような戦略を使って現地の関連企業を経営しているのかを見ることができた。タイの習慣と環境のなかで、日本人従業員の職場生活はどうであるかを当事者に聞きたいと思っていた。本研修では、見学や聞き取りを通して、海外に拠点を設立する企業の戦略と職場生活を把握することを目的とした。

2. 荷主における海外戦略

 海外に拠点を設立する企業は、市場拡大だけではなく、原料となる進出国の天然資源にも関係がある。例えば、荷主のメーカーにとっては、機械の部品工場をつくる時に鉱山が数多くある国につくれば、原料を安く調達できるため、部品を安く生産できる。パンの工場を作る時に小麦がたくさん栽培できる国につくるなど、である。

 海外に拠点を設立するときには場所も大切である。インフラストラクチャーが整備された国の方が企業活動をしやすくなる。交通機関、原料生産地の遠近、港湾設備などとともに場所(=立地)を判断する。

 以上から、荷主における海外戦略は一つのことだけではなく、あらゆることが関連している。海外に投資するときには巨額の資金と文化理解、それに経営の知識が必要とされ、詳しく検討し慎重に判断しなければならない。一度間違ったら大損になる。これ以外にも、自国ではないから気付かない諸問題と環境変化のリスクが数多く存在する。

3. 物流事業者の海外戦略

 物流事業者とはモノを送り先に届ける企業のことである。しかしそれだけでは、何をどこに届けるのか分からない。そこで、調達物流や生産物流、販売物流などの分け方がある1)。以下に各物流の種類、その及ぶ範囲と特徴を示す。

 どの物流の種類でも物流事業者の海外拠点戦略は策定される。各種類の違いは競争相手である。例えば、調達物流は陸上だけではなく、海上も空も使って輸送することがある。海外に展開すると、資金が多くかかるので、地元の調達物流会社と競争することが難しい。生産物流の多くは企業内部のため、競争相手があまりいない。販売物流はいろいろな競争相手がいる。その国やその国以外のもある。規模が大きく幅広い事業だから、競争が多くても、良いサービスと適切な値段を提供すれば、市場のシェアを獲得できる。

 しかし、海外に拠点を作った後に市場シェアを生み出すより、作る前に市場を手に入れる方法がある。それはパートナー企業を探すことである。相手は拠点を作る国の企業でも、自国企業でも、第三国企業であっても、互いに協力すれば良きパートナーになれる。パートナーはグループの企業でもいい。

 物流事業はサービス事業なので、製品がないという特徴がある。このため個人と企業のどちらにサービスを提供するかを最初に考えなければならない。もちろん、両方にサービスを提供することもできるが、費用が多くかかる。地元ですでにやっている形態とするか、新会社にするかを考えることも必要である。

 以上のことから、物流事業者の海外拠点戦略はまず誰が顧客かを決める。次に企業の形態を決める。自社が地元にしているようにするか、自社が培った経験を工夫して、さらに大きな企業の形態とするか。さらに拠点を作る前に他の企業と協力するかを考えなければならない。やはりパートナー企業がある方がよいだろう。物流は企業の発展や展開の一つの要因であるため、良いパートナーができれば、お互い一緒に成長できる。

4. 現地で活躍されている方々に聞きたいこと

 事前活動として、現地で活躍されている方々に聞きたいことについて下記の質問を設定した。「→」はその回答である。

① 円高、円安は企業に影響を与えるか。

 →円高になると、企業がどんどん進出するようになる。円安のときは企業があまり進出しない。海外に拠点がある銀行には影響を与えない。

② バンコック銀行の顧客は現地の人と日本人の割合はどのぐらいか。

 →現在、約7万人の日本人の顧客と取引している。これまでの全顧客1500万件のうち約20万件が日本人である。

③ JETROは日系企業の人事を支援しているか。

 →リクルートすることはまだない。現在、タイ人を日系企業にインターンシップできるように力を入れている。

上記の「→」は5.検証で具体的に記述する。

5. 検証(現地活動)

5.1 JETROタイ事務所

 JETROは日系企業に現地の情報を提供し、海外への進出を支援するところである。

 JETROバンコク(写真1)が調査した情報によると、2017年5月時点でタイに進出している日系企業は5444社である。その中では自動車関連企業が一番多い。最近、進出する日系企業はものを作ってない企業(=サービス企業)である2)

 企業がタイに進出した最大の理由は地政学的な優位性である。すなわち、企業にとってはどの方向にも進出できるということと、企業を展開しやすくする港湾や空港、隣国とを結ぶ道路などが次第に開発されてきたことである。

 JETROによると、タイ人と日本人との性格の違いは、タイ人は仕事とプライベートのことが分かれている、つまり、タイ人は(日本人と違って)休日に仕事のことを考えないことにある。ビジネスのやり取りはメールでしなくて、LINEですることもある。タイ人は転職が多く、よく賃金が高い会社に転職していく。

 日本人によるタイ人の感想の一つは次のようなものである。タイ人と働くときに伝えたいことが通じないときがある。日本人は普通にはっきり言わないことがあるので、タイ人が分からないことがある。なので、日本人同士で働く方が働きやすいといわれる。

写真1 ジェトロ・バンコク事務所

5.2  大垣共立銀行バンコク駐在員事務所

 大垣共立銀行バンコク駐在員事務所は現在、タイの企業26社と取引している。銀行業務以外にはフリーペーパーの冊子も作る。多くの会社の商品やサービスに関する情報を集めて、提供のしかたを考える。ITを使って、人と人、製品と製品、サービスとサービスをマッチングすることがこの銀行の役割である。

 臼井所長は15年間海外で働いた経験がある。臼井所長によると、銀行が顧客のことをよく知らなければならない。お金を借りる顧客が返せるかを判断できるようにする。それにビジネスをするときには絶対に諦めない人間になって欲しい。サッカーのように最後までゴールを取りにいくことを教わった(写真2)。

写真2 大垣共立銀行バンコク駐在員事務所でのブリーフィング

5.3 バンコック銀行

 バンコック銀行は1944年に設立されたタイ最大の銀行である。現在、チャットシリという3代目の社長が運営している。タイ国内に1166支店と、海外に32拠点がある。

 バンコック銀行の日系企業部は日系企業と日本の駐在員に金融サービスを提供している。今、約7万人の日本人顧客とタイに拠点がある1400社と取引している。しかし、これらの会社は、日本の親会社から提携金融機関(約25の日本の銀行)を通して、バンコック銀行からバーツの融資を受けている。

 日本にある親会社から日本の銀行と現地の銀行を通してタイの拠点に資金を出すことは、スタンドバイクレジット(信用状)と呼ばれる。スタンドバイクレジットの手段は、最初はタイの拠点における資金の必要性を親会社と打ち合わせる。それに親会社が提携金融機関にバーツの借金の保証を依頼すると同時に、タイの拠点は現地の銀行に融資を申し込む。その後、提携金融機関がバーツの借金の保証を発行して、現地の銀行に出す。最後に現地の銀行からバーツの融資をタイの拠点に実行する。スタンドバイクレジットでするメリットは、バンコック銀行からスムーズにバーツの資金調達ができることにある。日本の銀行から融資を受けると返済のときに為替変動のリスクがあるから、スタンドバイクレジットならそのリスクを回避することができる3)

5.4 あいおいニッセイ同和損保タイ

 タイでは2005年以前は法的な理由で外国の保険会社がタイに設立できなかった。法律が変わると、2005年にAioi Bangkok Insurance(ABI)がタイにあるトヨタ自動車とサプライヤー会社と日系企業の保険を中心として営業を開始した。その後、バンコック銀行とあいおいニッセイ同和損保とが協業し、日系事業とトヨタリテール事業になる。

 あいおいニッセイ同和損保のプレゼンテーション(写真3)では2つの事業の主な役割が説明され、詳しく理解することができた。

 日系事業は日系の顧客に様々な種類の保険を提供する。その他にはタイと周辺の国の工場や会社に関連するリスクの情報も提供する。

 トヨタリテール事業は個人を対象とした、トヨタ販売店で販売する自動車保険を提供する。トヨタは10社の損害保険会社でトヨタブランドの保険Toyota Careを販売する。その10社の中のシェアはあいおいニッセイ同和損保のトヨタリテール事業が2位である。この10社の協力でこのブランドが6年連続Aランクを受賞した4)

写真3 あいおいニッセイ同和損保タイでのプレゼンテーション

5.5 セイノー・サハ・ロジスティクス

 セイノー・サハ・ロジスティクスはサハ工業団地の中にある。2015年にセイノーホールディングとサハグループとが協業して合弁で設立した。「セイノー・サハ・ロジスティクス」の「サハ」はサハパットグループという財閥のことである。

 セイノー・サハ・ロジスティクスの主なサービスはサハグループの商品保管(写真4)と運輸である。将来にはトラックでクロスボーダー輸送と低温輸送サービスをすると判断している。トラック輸送のみを認めるが、その理由は、現在、タイの鉄道網がまだ発展していないからである。

 タイ・プレシデント・フードはインスタントラーメンの会社である。タイでよく呼ばれる名称は「ママ」である。見学によると、タイはインスタントラーメンの原料である小麦が作れない国であり、現在はアメリカとカナダ、オーストラリアから輸入している。現地のインスタントラーメン工場では麺作りから包装までできるが、カップラーメンのカップは輸出用のプラスチックカップを別の工場から仕入れて使っている。国内用は、現地で環境に優しい紙カップを生産できる。

写真4 セイノー・サハ・ロジスティクスでの倉庫内見学

6. タイの日常風景

 今回の研修ではタイのバンコクとチョンブリー県に行った。そのとき見た町は賑やかであった。バンコクは東京のように人口約1100万だが、東京より賑やかな理由は公共交通機関が足りないことだと思われる(写真5)。だからバンコクの人はよく車を使う。

 チョンブリー県と比べるとバンコクにはオフィスビルが多い。チョンブリー県には港があるから工場と工業団地が多い。バンコクとチョンブリー県市内は屋台のような店が多く見られる。タイの人はよく屋台の店で買い物する。その理由はスーパーより安いからだ。

写真5 バンコク市内の交通機関

7.おわりに

 今回のタイ短期海外研修でタイに拠点がある日本の銀行や、現地の銀行、さらにタイに拠点がある日本の企業などから聞いて学んだことは、最初から海外に拠点を設立することで成長するわけではなく、現地の環境との適応が必要だということである。それに拡大方向を探すことも求められる。

 社内で現地の人と働くときにはさまざまな分からないことがあるから、他方の文化や言葉を理解できる程度の異文化コミュニケーション能力が必要である。

 見学した会社や銀行をみると、現地の会社と協業して設立した会社がほとんどである。資産の有利性やターゲットに当たりやすくすることが理由である。

 今回の研修の間に聞いた話の中で、将来海外で働きたい人は若いときにたくさん能力をつけるよう勧められた。特にコミュニケーション能力である。現地の人と友達になると、現地のことがもっと分かるし、ビジネスをしやすくなる。このため、私は経営を勉強するだけではなく、言葉の壁を飛び越えられるように外国語と外国文化を学び、海外の友達を増やせるように頑張る。

(2018年度経営学部短期海外研修報告〔タイ〕)

参考文献

1)物流の種類https://www.keyence.co.jp/ss/products/autoid/logistics/role/field.jsp 最終アクセス日 2019年1月6日

2)ジェトロ・バンコク事務所 2019年2月 タイの概況とアセアン経済

3)バンコック銀行 2019年2月26日 タイ国の基礎データ及びバンコック銀行について

4)あいおいニッセイ同和損害保険株式会社Bangkok Chayoratn CO., LTD.  2019年2月27日 研修資料

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