標題とは別に、なろう小説の「現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変」(二日市とふろう/オーバーラップ)は超お薦め。よくある過労死転生物。まだ1巻しか読めていないのだが、拓銀が破綻しないで北海道経済がどうにかなっているIFものとして感涙。また、バブル崩壊以降の日本経済・経営史を追いかけていく手がかりにはなると思う。これからどうも政治方面に進出して小泉改革と闘うことになるようだが、日本をどのように、ここじゃない着地点に導くのか楽しみである。
さて、マンガの方で追いかけているのは「逃げ上手の若君」(松井優征/集英社)と「新九郎、奔る!」(ゆうきまさみ/小学館)。逃げ上手は子供(10歳児)に読ませているのだが、「これから織田信長って出てくる?」とか聞かれて、そういや北条早雲の後に信長なんだよな→室町幕府ができる話か、と気づいた次第。両方読んでいると、いかに室町時代というか足利将軍家がグズグズだったかというのが非常に良く理解できる。一応200年以上続いているが、180年ぐらい内乱と謀反と戦国しているイメージ。地方政権の寄り集まりという構造であったにもかかわらず、下手に中央政権があったのが失敗の元だったのかなあ、と。あと「その土地は元々うちの物だったから返せ!」の調停が機能不全している。
「逃げ上手の若君」は、少年ジャンプで中先代の乱を扱うという、暴挙と言っても良いほどの野心作である。ただ、松井優征という希代の好手が描いているだけあって、普通に面白い。この人、暗殺教室→若君を読むだけで天才だということがよく分かる(現在「脳噛ネウロ」履修中)。色物キャラを設定して、その人物を突き動かす動機を描くのが本当に上手いんだよなあ。史料の少ない時代背景だけあって、かなり自由に脚色して描いているが破綻がない。諏訪家を中心とした北条時行の近衆(逃若党)も少年マンガらしいキャラが立っているが、何と言っても敵役の足利方の武将(“南北朝鬼ごっこの”鬼と目される)が凄すぎる。まずは初期の中ボス小笠原貞宗。分かりやすい悪役なのだが、武士として大人としての矜持を持っており、結果的には少年・時行を鍛える役回り。でも、まあ小笠原家から苦情が入らないのかという程度の変態ではある(さらに諏訪頼重の人物造形については大神さまからの直接の罰が当たると思う(笑))。その他、上杉(長尾さんを木人形(デク)にした挙げ句家臣とする←なおその200年後)、吉良、斯波、一色など、後の室町幕府を支える(そして延々と内輪もめを繰り広げる)錚々たるメンバーで一杯。中でもマズいのが今川範満。この人、史実でも「馬の背中に足を縛り付けて出陣し討ち死にした」人らしいけど、色々とヤバいでしょ。上げ馬神事どころの騒ぎではない動物虐待だが…まあこういう具合に壊れちゃう人っているよね。暗殺教室に引き続き群像劇としてワチャワチャ面白いところ。これから足利尊氏の異能や南北朝の争いがどのようにからんでくるのかが楽しみである。
「新九郎、奔る!」は、これは秀才ゆうきまさみの安心して読んでいられるマンガ。こちらは伊勢新九郎(北条早雲)が将軍近侍を務める家の次男坊としてうだつの上がらない人生を歩んでいるところから、どのように戦国大名に成り上がっていくのかを描いた作品。最新の北条早雲(という言い方自体がないらしい)研究が反映されており、今後の展開が気になってついつい「今川氏親と伊勢宗瑞」(黒田基樹/平凡社)とか買っちゃった。この人も長らく前半生が史料的に謎だったせいで、「7人の侍が伊豆で一旗揚げようとし、誰かが出世したら他の6人は家臣になろう!」みたいな伝説が語られていた。実際は(というか今の研究では)、現在そのへんを単行本でやっているのだが、とにかく借金返済と領地経営(将軍近侍なので京に在住しているため、在所を親戚に常に狙われている)に汲々としているイメージである。このあたりが、時代劇で取り上げられることも少なく、大河ドラマでも描かれない「室町時代の上級武士の生活」みたいな空気感が出ていて興味深い。ゆうきまさみらしい丁寧な描写(そして手塚マンガ的なメタな解説)が効いている。1巻冒頭は堀越御所襲撃から始まっているのだが、これから新九郎(伊勢盛時)がどのような経路をたどって辿り着くのか、歴史の本とは別の意味で(意思を持った登場人物としての)楽しみである。
さて、今回の原稿を書くときに調べて分かったこと。逃げまくって足利尊氏に一泡ふかせまくった北条時行は最終的に捕縛され処刑されるのだが、例に漏れず「逃げ延びて生存し子孫を残した」伝説がある。その1つに「伊勢に逃れ“伊勢氏”を名乗り、その子孫が北条早雲である」というのがあるのだそうだ。伊勢宗瑞の研究が進み、伊勢家の立ち位置は明確なので、その説はあくまで与太の域を出ないことになってしまったのだが、考え方としては面白い。伊勢は青野ヶ原の戦い後に北畠顕家と転進した地であり(後にその父親房の根拠地となる)、逃げて逃げた時行が身と名を隠して伊勢氏を名乗り、その子孫が北条の名を取り戻したと考えるのも、いかにも伝奇的で面白い。
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