経営学部 櫻木晋一
自分の研究紹介を兼ねて、2020年3月から12月まで7回にわたって連載した話の続編です。前回の最終回がケンブリッジ大学だったので、続編の最初は同じくイギリスの名門オックスフォード大学にしましょう。オックスフォード大学は言わずと知れた世界トップ大学のひとつで、ロンドンから鉄道で北西に1時間ほどのところにあります。今上天皇はこの大学のマートン・コレッジで2年4カ月学ばれ、皇后陛下も外務省職員時代に同じくペリオ―ル・コレッジで学ばれていたことをご存じの方も多いのではないでしょうか。

オックスフォード大学には付属の研究機関としてアシュモリアン博物館があり、私が留学していたケンブリッジ大学フィッツウイリアム博物館と同様の役割を果たしており、ここは世界最古の大学博物館としても知られています。アシュモリアン博物館にもコインズ&メダルズという部局があり、多くのすばらしいコインコレクションが所蔵されています。私が専門とする日本貨幣もオンライン上で公開されており、博物館のホームページ(https://www.ashmolean.org)からCOLLECTIONS ONLINE、COINSと入っていけば、誰でも見ることができます。私は、当時ここの学芸員だったLyce Jankowski女史(現ベルギーMariemont王立美術館)から日本貨幣の鑑定を依頼され、データベースの作成に協力したのです。近年はインターネット環境の進歩で、貨幣の画像データを送ってもらえば、日本での仕事が可能なので、現地での作業は数日間で済みました。この訪問時に滞在したのはホテルではなく、1714年創立のウスター・コレッジ内にあるゲストルームに泊めてもらったので、とても貴重な体験をすることができました。
この博物館が所蔵している日本貨幣は1,404枚で、明治以降の貨幣を除くと1,279枚です。ただ、コレクションの銭種に偏りがあり、古代貨幣であるいわゆる皇朝銭が766枚と約6割を占めており、なかでも出土品の富壽神寳が230枚と突出しています。これは、大英博物館編で紹介した江戸時代のコレクター大名である朽木昌綱コレクションの一部がここにもあるためで、驚くべきことに日本最古の貨幣である富本銭も1枚所蔵されているのです。さらに、ここには昌綱が使用していた漆塗りの古銭箱がいくつも収蔵されていて、古銭収集という観点での研究はまだ誰もやっていません。最高の日本貨幣コレクションがイギリスに流失しているのは残念ですが、できれば大英博物館とアシュモリアン博物館の資料のデータを統合して、いつの日か朽木昌綱コレクションの全貌を復元できたら良いなと思っています。


最後の話題提供をします。この博物館には名器を含む楽器類もたくさん収蔵されており、とりわけ有名なバイオリンのひとつであるストラディバリウス1716年作の「メサイア」も展示されています。大学博物館とは思えないほど多様で充実した収蔵品が展示されており、名門大学の奥深さを感じることができるので、一度訪ねてみたらいかがでしょうか。



最近のコメント