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人工知能を使った遊び「現代アートごっこ」(畦地真太郎 )

 私には絵の才能がない。見るのは好きなのだが、描く才能が絶無である。50歳を過ぎても頭足人しか描けない発達段階である。心理屋として、ある程度は人体の構造は把握しているはずなのに。遠近法が使えない。「心理学実験」の授業でミュラー=リヤー錯視とか教えている身なのに。

 しかし。機械の発達というのは恐ろしいもので、かよう非才な私でも、絵を「いじくる」ことは可能になる程度の支援が得られるようになったのだ。授業で多用している「いらすとや」さんと、万能工具Microsoft PowerPointに対する感謝は海よりも深いが、今回はより遊びに近い「DALL-E mini」を使った「現代アートごっこ」について解説してみたい。

 DALL-Eについての詳しい解説は他に譲るとして、雑ぱくに言うと「入力したキーワードに従って絵を生成してくれる人工知能」である。もちろん、背景には膨大なデータ学習が埋もれているし、本来であれば強力なコンピュータ・パワーが必要だ。それを、誰でも少しだけ試せるようにした実装が、DALL-E miniである。触り始めてから2週間、面白がって“厄い”画像を相当数作ったのだが、ここでの公開がはばかれるため、なんとなく「自分はこうやって絵を作っている、こんな感じだと作りやすい」という手順を示してみる。

  1. キーワード

 入力するキーワードは、厨二っぽく(つまり修飾過剰で無駄に格好良く)長いものが望ましい。ただし、キーワードが長いほど、画像の生成時間が長くなる。人物の顔面が崩れて生成される傾向にあるため、「双子」とか「赤ちゃん」「人形」などは入力しない方が良い(手元にはたくさんあるけど)。

 キーワードは英語だが、英語として簡明な記述だと「思ったより良い結果」「ネット上に落ちている画像に近い結果」が得られる。いつもは自分でひねり出した(ここには絶対に書けない)異常な感じの一節を使うのだが、今回は手元のiTunesに入っている楽曲タイトルの中から、それっぽく長い物を「DeepL」(こっちも色んなお遊びに欠かせない、AI翻訳ツール)で英語化する。

  1. 生成

 今回、一番結果が良かった、チャクラの「これから死んでゆくすべての生命体に捧げる詩」で解説する。

 このタイトルをDeepLにかけると、“A poem dedicated to all life forms that will die”という結果が出てくる。遊びなので、翻訳の正確性は当然気にしない。このキーワードをDALL-E miniのウインドウに貼り付けて「RUN」させると…およそマンガ数ページ読み進める程度の時間が経って、画像9枚のサムネイルが出現する(図1)。

図1 DALL-E Miniによる画像生成結果例

 この中から、自分のイメージに合う画像をクリックすると、ダウンロード可能な画面になる(図2)。基本的な使い方は、これだけである。サムネに出てきた画像がイメージに合わなかったり、自分の目的・用途に使いづらかったりする場合には、いくらでもやり直しをして、いくらでもマンガを読み進めればよい。「RUN」の度に、毎回、違った結果が生成される。ちなみに今回は没も含めて20キーワードほど生成したのだが、週末に買った「チ。-地球の運動について-」8巻(最終巻)をちょうど読み切った。

図2 「これが良さそう」というイメージの選択
  1. 加工

 もちろん、このままでも十分に「へえっ」という画像なのだが、せっかくなのでオリジナリティをチョイ足ししたい。ちなみに、調理の世界では技術のない人間が思いつきでレシピを外れると悲惨な結末に陥るのだが、これは遊びなのでかまうものかよ。

 Web上にもオンライン画像加工サービスは多々あるのだが、無料の物は透かしが目立ったり、補正が主で、アーティスティック・フィルタが目立たない物が多いので、下品な画像加工のできるアプリを適当にスマホで探す。今回用いたのは「Deep Art Effects」のAndroid版。これもデカデカと「人工知能」を謳っているな。

 使い方は簡単。読み込んで、数多いエフェクトから好きなのを選んで、何度もやり直しをしながら好きな結果を選ぶ。有料版ではエフェクトが増え、透かしがない画像を作れるのだが、無料版でも遊びには十分な結果が出てくる。図2のイメージに、もう何という名前のフィルターをかけたのか覚えていないが、よさげだったのが図3-1の結果(2枚を横並び)。ちなみに、こちらもフリーの画像編集アプリ「LINE Camera」で余白を切り抜いている。

図3-1 「これから死んでゆくすべての生命体に捧げる詩」(チャクラ) イメージ1・2

 同様の手順で、右下隅のイメージを加工した物を、図3-2(2枚を横並び)に挙げておく。同じキーワードからでも、かなり異なった系統の画像を生成できるので、それなりに好みに近い絵を作ることは可能だと思う。作った自分としては、どぎつい色合いの右側の方がエモいかな

図3-2 「これから死んでゆくすべての生命体に捧げる詩」(チャクラ) イメージ3・4
  1. 展望と限界

 という、絵心のないものにとっては可能性満載のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいる。“mini”ではない本来のDALL-Eプロジェクトでは、現実の写真なのかフェイクなのか判別がつきにくいレベルの画像生成が為されるところまで研究が進んでいるらしい。これについては、文章生成AIで書かれた論文・職務経歴書等が本人執筆として提出される不正と同様の倫理問題が予測されている。今回の「絵」程度だと「ああ、画像生成AIで描いて、雑にフィルターかけたんだな」ってのがバレバレではあるが、ひょっとすると将来「畦地真太郎画伯(実はAI)」という不正…なのか、それが芸術として認められるのか、判別不能な何かが誕生するかもしれない。

 DALL-E miniの限界としては、第1. 項にも書いたのだが、筋の通ったキーワードを入力すると、筋の通った画像しか出てこないことが挙げられる。いや、本筋は、そっちの方を目指している技術に間違いないのだろうが、現代アートごっことしては物足りないところが出てくる。例えば今回、「十二月の午後、河原で僕は夏の風景を思い出していた。(ZABADAK)」(図4左)なども用意していたのだが、印象画風の夏の湖畔の絵しか生成されなかった(この作風はルノワール?)。曲とアルバムカバーは冬(12月)そのもののイメージなだけに、ちょっと食い違い。「冷たい水の中をきみと歩いていく(谷山浩子)」(図4右)は、出てきた画像を見ると「そりゃそうですよね!」という、氷水の中を人が歩いて行く画像出力結果。まさか失恋で死んじゃいそうにお辛い歌とは想像できない。冷たさに死んじゃいそうだ。

 一方で大槻ケンヂの2作品、「恋人よ逃げよう世界はこわれたおもちゃだから!」と「子供じゃないんだ赤ちゃんなんだ」を入力してみたところ、掲載できないほど厄い画像が生成された。さすがオーケン!フィールドを選ばず平然とやってのけるッ!そこにシビれる、あこがれるゥ!!まあこれは「恋人」「おもちゃ」「子供」「赤ちゃん」というキーワードが、作画崩壊系の人物画を生成しやすいことによるものなのだが。このあたりと画質の粗さがmini版の限界と言われている。

図4他キーワードでの画像生成結果 1・2

 と、こんな感じで、字と画像が多すぎて読みにくい、そもそも掲載可能なのかと思われる雑文だったが、きっと編集担当が何とかしてくれるに違いない。機械の支援が頼もしい世界に変わりつつあるが、やはり最後の調整は人力、人間の感覚と調整がコミュニケーションには不可欠なのだろうなあ。

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